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広島地方裁判所 昭和52年(ワ)50号 判決 1980年2月14日

原告

内海運輸合資会社

ほか一名

被告

佐々木食品工業株式会社

主文

1  被告は、原告内海運輸合資会社に対し金一〇万六、〇三六円およびうち金九万一、〇三六円に対する昭和五〇年一一月一六日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告安田火災海上保険株式会社に対し金一一万九、五八〇円およびうち金一〇万四、五八〇円に対する昭和五一年二月五日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  原告のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は、これを三分し、その一を被告の、その余を原告らの負担とする。

5  この判決は主文第一、二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の申立て

一  原告ら

「被告は、原告内海運輸合資会社(以下「原告内海運輸」という)に対し金三五万三、四〇〇円およびこれに対する昭和五〇年一一月一六日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を、同安田火災海上保険株式会社(以下「原告安田火災」という)に対し金三九万八、六〇〇円およびこれに対する昭和五一年二月五日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言。

二  被告

「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決。

第二主張

(請求の原因)

一  事故の発生

(日時) 昭和五〇年一一月一五日午前五時一五分ころ

(場所) 広島県大竹市南栄町二丁目一〇―一八、磯野蕃方前国道二号線道路上

(加害車両) 被告所有の普通貨物自動車(大分一一さ五四〇二)(以下「被告車」という)

被告の従業員古河健太郎運転

(被害車両) 原告内海運輸所有の大型トレーラー(神戸一一か五二〇四)(以下「原告車」という)

前川満運転

(態様) 西進中の原告車の右前部に対向進行してきた被告車の右前部が衝突したもの。

原告車は右衡撃により訴外磯野蕃所有の家屋に接触し、右家屋の一部を破損させた。

二  被告の責任

本件事故は、被告車を運転していた古河健太郎が、当時降雨中で路面が滑りやすい状態であるのに漫然とブレーキを踏んだ過失により被告車が滑走してハンドルをとられ、センターラインをオーバーして対向車である原告車に前記一、態様に記載のとおり衝突したものである。これは右古河が被告の業務執行中に起した事故であるから、被告は、これによつて生じた後記損害を賠償する責任がある。

三  原告らの損害

(1) 原告内海運輸

イ 車両修理代 金一二万九、一〇〇円

ロ レツカー代 金四万円

ハ 磯野蕃家屋修繕費 金二一万九、五〇〇円

ニ 休車補償 金二六万三、四〇〇円

合計 金六五万二、〇〇〇円

(2) 原告安田火災

原告安田火災は、原告内海運輸との間の保険契約に基づき昭和五一年二月四日、前記(1)、イ、ロの合計金一六万九、一〇〇円から金二万円(免責分)を控除した残額金一四万九、一〇〇円および同(1)、ハの金額から金二万円(免責分)を控除した残額金一九万九、五〇〇円の合計金三四万八、六〇〇円を原告内海運輸に支払つた。

四  よつて原告内海運輸は、被告に対し前記三、(1)の損害額から受領した保険金を控除した残額金三〇万三、四〇〇円に弁護士費用金五万円を加算した金三五万三、四〇〇円とこれに対する事故の日の翌日である昭和五〇年一一月一六日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告安田火災は、被告に対し金三四万八、六〇〇円に弁護士費用金五万円を加算した金三九万八、六〇〇円とこれに対する支払日の翌日である昭和五一年二月五日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

(被告の答弁)

請求原因一の事実のうち、原告車が磯野蕃所有の家屋に接触し、これを破損させたとの点は知らない。その他の事実はすべて認める。

同二の事実のうち、本件事故当時降雨中であつたこと、古河が被告の業務の執行中であつたことはいずれも認める。その他の事実は否認する。ちなみに本件事故現場は照明がなく暗いうえ、折からの雨で前方路面の状態を見通すことができない状況であつたところ、路面に重油が流れていて被告車が滑走したので、古河が急制動をかけたが、被告車は車両後部を右にふり、そのままスリツプして車両前部が若干センターラインをはみだしたもので、本件事故は不可抗力によるものである。

同三の各事実は、いずれも知らない。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  請求原因一の事実(但し、原告車が磯野蕃所有の家屋に接触し、これを破損させたとの点を除く。)は、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで次に、本件事故が被告車を運転していた古河健太郎の過失行為によるものかどうかの点について検討する。

成立につき争いのない乙第一号証の一ないし三、証人菅道俊の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第一号証(但し、後記信用しない部分を除く)、証人前川満、同菅道俊、同樽谷徳弘、同斉藤信夫、同名倉隆および同古河健太郎の各証言ならびに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1)  本件事故現場は、岩国方面から広島市方面に走る車道の幅員八メートル(中央線がひかれていて片側各四メートル)の見通しのよい国道二号線上で、小瀬川(広島県と山口県との県境)にかかる栄橋北詰から約五〇メートル広島市方面(北)に寄つた地点にあり、右栄橋北詰から広島市方面に向つてゆるやかな下り勾配となつている。

(2)  本件事故当時は、小雨が降つており、上り車線の路面には栄橋北詰あたりから本件事故現場を経てさらに広島市方向にかけてかなり広範囲に重油がべつとりと流れていた(事故後実況見分にあたつた警察官もこのままの状態では更に事故が発生する危険があると判断して砂をまいて危険防止措置をとつている)が、事故現場付近には照明設備もなく、車の前照灯だけでは雨水との区別がつきにくい状態であつた。

(3)  古河健太郎は、事故の前日、被告車(四・五トン車、積荷なし)を運転して大分県豊後高田市を出発したが、その際、同僚の運転手から、被告車の前輪が速度によつて異常振動するので広島から帰つたら修理をするようにいわれていた。事実、右古河は、被告車を運転中、時速約四二キロメートル以上四八キロメートル以下の走行状態になると被告車の前輪にがたがたという振動があることを確認している。

(4)  古河は、先行車と約四、五〇メートルの間隔をおいてこれに追尾し、被告車のライトを下向きにしたまま、時速四〇キロメートルを少し超えた位の速度で被告車を運転し、岩国方面から栄橋を渡つて下りにさしかかつたが、路面に重油が流出していることに気づかず、栄橋北詰から約三〇メートル進行したところ、前輪にがたがたという振動があり、それと同時に車全体が浮きあがつたような状態で右斜め前方にスリツプしはじめた。古河は、被告車を中央線から一ないし一・五メートル内側に保つて運転していたが、スリツプにより中央線を越えそうになつたところえ、対向車線上を原告車が接近してきていたので、ハンドルを操作して衝突を避けようとしたが車の方向をかえることができず、またブレーキを踏んだが全く制動の効なく中央線を越えて被告車右前部を原告車(けん引車)の右前部のタイヤに衝突させ、その反動で被告車は進路左斜めに方向を変えてガードレールに衝突し、車道を塞ぐような形で停車した。

(5)  前川満は、広島市方面から岩国方面に向け原告車を運転し、時速約四〇キロメートルで本件事故現場である上り勾配に差しかかつたところ、いきなり対向車である被告車が中央線を越えて進行してきたので、ハンドルを左に転把してこれを避ける余裕もなく前記(4)のとおり被告車と衝突し、その反動で原告車は進路左側に押し出され、磯野蕃所有の家屋に接触して停車した。

(右事実が認められ、右認定に反する甲第一号証の記載部分は前掲各証拠に照らし措信できないし、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。)

右の事実を総合すると、本件事故は被告車の走行路面に重油が流出していたため、下り勾配であつたことも手伝つて被告車がスリツプしたことに原因があつたと考えられる。自動車の運転者としては、走行路面に重油など流れていることを認めた場合には、直ちに最徐行するか運転を中止して砂をまくなどの措置を講じ、スリツプ等による危険を未然に防止すべき義務があるものというべきであるが、右義務は重油など走行を危険ならしめるものの存在を認識し得ることを前提としている。本件の場合についてみると、右(2)に認定したとおり事故現場付近に夜間照明の設備もなく、運転者として頼れるのは車の前照灯だけであるが、事故当時は小雨が降り続いていて走行中に雨水と重油を識別することは著しく困難であつたもので、その意味で運転者に先きの結果回避義務もないものといわざるを得ない。

しかしながら、被告車は右(3)認定事実のとおり、一定の幅の速度内で前輪に異常振動が起り、この点は被告車を運転した前任者から修理するように注意を受け、運転者古河自身も事故現場にさしかかるまでに確認しているものであり、そのうえ右(4)認定事実のとおり被告車の速度が時速四〇キロメートルを越え右振動が起きた直後にスリツプ状態に陥つていることからすれば、右振動だけではスリツプしないにしても、本件のような路面状態においてはスリツプの直接の切つ掛けとなつたことは十分考え得るところである(被告車より約五〇メートル先行していた車は滑走していない)。

以上の点を総合考慮すれば、重油を路面に流出させた者または道路設置管理者の責任を問いうることはともかく、損害の公平負担という観点からして右のような被告車の走行を一体として過失(整備義務を怠つて整備不良車を運転したこと、異常振動をきたすような走行状態においたこと)として評価することも許されるものというべく、事故発生の寄与度を勘案し、その責任の範囲を三割と認めるのが相当である。

三  本件事故は、被告の従業員である古河が、会社の業務として被告車を運転中に起きたものであることは当事者間に争いがなく、被告は、使用者として前記二の限度で後記四の損害を賠償すべき義務があるものといわねばならない。

四  次に原告らの損害について検討する。

(1)  原告内海運輸分

証人樽谷徳弘の証言により真正に成立したものと認められる甲第二ないし第四号証、、同第五号証の一、二、同第六ないし第八号証、および証人樽谷徳弘の証言によれば、次の事実が認められる。

イ  原告車の修理代 金一二万九、一〇〇円

ロ  レツカー作業代 金四万円

ハ  磯野蕃家屋修繕費 金二一万九、五〇〇円

前記二(5)のとおりの接触により磯野家屋の庇、鴨居、雨戸等が破損した。

ニ  休車補償 金二六万三、四五六円

原告車の事故前三ケ月の営業成績は次のとおり。

(稼働日数) 五三日

(走行距離) 七、四六八キロメートル

(水揚) 二一四万七、〇〇〇円

(使用燃料) 七、四五〇リツトル、単価五三円、

合計金三九万四、八五〇円

(使用オイル) 一五リツトル、単価四五〇円、

合計金六、七五〇円

以上により一日の純水揚高を算出すると金三万二、九三二円となり、修理のため八日間の休車をしたので、その間の損害を算出すると金二六万三、四五六円となる。

原告内海運輸は、右イないしハの費用を負担し、ニのとおり得べかりし利益を喪失したが、原告安田火災との間の保険契約に基づき、昭和五一年二月四日同原告から右イおよびロについては免責額二万円を除いた残金一四万九、一〇〇円をまた右ハについては免責額二万円を除いた残金一九万九、五〇〇円を、それぞれ受領した。

(2)  原告安田火災分

原告安田火災は、前記(1)認定事実のとおり保険金三四万八六〇〇円を原告内海運輸に支払つた。

五  弁論の全趣旨によれば、原告らは、本件訴訟の提起追行を弁護士竹中一太郎に委任したことが認められるが、本件訴訟の難易、経過等一切の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある損害として被告に負担させるべき弁護士費用は、原告らともに各金一万五、〇〇〇円が相当である。

六  以上のとおり被告に対し原告内海運輸は、前記四(1)の損害のうち受領した保険金を控除した残金三〇万三、四五六円の三割(前記三の被告の責任限度)相当額金九万一、〇三六円(円未満切捨て)と弁護士費用金一万五、〇〇〇円の合計金一〇万六〇三六円およびうち金九万一、〇三六円に対する本件事故の発生した日の翌日である昭和五〇年一一月一六日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告安田火災は前記四(2)の損害の三割(前記三の被告の責任限度)相当額金一〇万四、五八〇円と弁護士費用金一万五、〇〇〇円との合計金一一万九、五八〇円およびうち金一〇万四、五八〇円に対する保険金を支払つた日の翌日である昭和五一年二月五日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、各支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その他の部分は理由がないので棄却する。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本昭彦)

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